東京高等裁判所 平成2年(ネ)2408号 判決 1991年7月30日
大阪市西区西本町二丁目六番一一号
控訴人
中山太陽堂興産株式会社
右代表者代表取締役
中山正子
右訴訟代理人弁護士
山本忠雄
右輔佐人弁理士
江口俊夫
東京都港区東新橋二丁目三番一一号
被控訴人
ダイリン株式会社
右代表者代表取締役
生井勝利
右訴訟代理人弁護士
立石邦夫
同
郷原友和
同
土田正弘
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決添付の別紙標章目録一、二記載の各標章を付した頭皮用育毛剤及びシャンプーを製造販売し、販売のため展示してはならない。
3 被控訴人は、その所有する前項記載の各標章を付した頭皮用育毛剤及びシャンプーから前項記載の各標章を除去し、右各標章を付した頭皮用育毛剤及びシャンプーに関する包装物及び宣伝広告物を廃棄せよ。
4 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
5 右2、3項につき、仮執行の宣言。
二 被控訴人
主文同旨の判決。
第二 当事者の主張
当事者双方の主張は、次に付加するほかは原判決のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決の三丁裏五行の次に、改行のうえ、「本件商標及び被控訴人標章はいずれも頭髪化粧品の識別標識であるが、この商品の大部分の需要者である男性は、憧憬として、毛髪が鬱蒼として森林のごとく勢いよく生え揃った状態を希求するものである。このように、頭髪が次第に増毛して最終的に大きな森林の状態を呈するとのイメージ効果を出すために「大森林」と称したり、あるいは、木々の本数が次第に増加して林の状態となり、更に増加して森林になること、換言すれば、需要者に対し次第に頭髪が増毛していくであろうとの暗示を与えるために「木林森」と称したりするものである。すなわち、大森林も木林森も最終的に頭髪が増毛してそのような状況を醸し出すことから同一のイメージを生じ、したがって、観念上紛らわしいというべきである。」を付加する。
二 原判決の四丁表一行の次に、改行のうえ、「すなわち、本件商標及び被告標章の第一番目に位置する字は「木」と「大」であるが、両者の相違は垂直線があるかどうかの微差にすぎない、「大」の字と外観上類似する字は、この他「太」「犬」「天」の字があり、最も類似するものは「太」と「犬」であるが、この字の次に紛らわしい字は「木」の字である。更に、「木」と「大」の共通点は、この二字が左右対象の構成である点である。
次に、本件商標及び被控訴人標章の二番目の文字以下の構成について比較すると、両者の相違は二番目の文字と三番目の文字とが単に入れ替った点にあるから、時と所とを異にして両者を離隔的に観察すると外観上紛らわしいということができる。
更に、本件商標及び被控訴人標章は、次のように同一の特徴を示している。すなわち、「木林森」の中の「木」の文字は「一本の木」であり、「林」の文字は「二本の木」、そして「森」の文字は「三本の木」より構成されている。これに対し、本件商標の中の「森」の文字は「三本の木」、「林」の文字は「二本の木」より構成されたものであり、両者は「六本の木」と「五本の木」の違いにすぎず、全体として観ると多数の木の集合体であるとの印象を与えるものである。」を付加する。
第三 証拠関係
本件原、当審記録中の書証目録及び当審記録中の証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決の理由と同一であるから、これを引用する。
1 原判決五丁表三行の「大」から同五行の「認められないから、」までを「本件商標及び被控訴人標章は、抽象的な図形からなる商標ではなく、いずれも日頃馴れ親しんだ有意の文字によって構成されており、控訴人が主張するような点を考慮しても、「大」と「木」、「森林」と「林森」の外観上の相違は明らかであって、離隔的、全体的に観察するも、両者は、外観において類似するものとは認められず、特に、後に述べるような本件商標及び被控訴人標章の付せられた頭髪化粧品の需要者層において、外観上両者を混同するものと認めることはできないものというべきであるから、」と訂正する。
2 六丁裏末行に「当審における控訴人の主張及び証人来嶋敏郎の証言も右の判断を覆すに足りるものではない。すなわち、控訴人が主張し、また、同証人の証言により認められるように、本件商標及び被控訴人標章が付せられている頭皮用育毛剤、シャンプー等の頭髪化粧品の需要者は育毛、増毛を強く望む男性であるが、かかる需要者は当該商品に付せられた標章に深い関心を抱き、注意深く商品を選択するものと推認されるものであるから、当審証人来嶋敏郎の証言により認められる本件商標及び被控訴人標章が付された商品についての取引の実情を考慮しても、本件商標及び被控訴人標章について観念による混同は生じないものというべきである。」を加える。
二 以上によれば、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却すべきである よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 舟橋定之 裁判官 杉本正樹)